世界一を目指すクラゲ水族館――展示の未来を支える舞台裏。加茂水族館館長インタビュー

選択なし

鶴岡のまちの人々はもちろん、観光で訪れる人たちからも親しまれている加茂水族館。現在、同館ではさらなる魅力アップを目指し、クラゲ展示室の拡張や研究所・レクチャールームの移転を伴う増築・改修工事が進められています。2025年11月から2026年3月末まで臨時休館し、2026年4月にいよいよリニューアルオープンを迎えます。
今回は、そのリニューアルに込めた思いを、加茂水族館館長の奥泉さんと飼育課の佐藤さんに伺いました。

公開日:2026年2月17日

クラゲ展示を支えるバックヤードの強化

さまざまな背景をお話くださった奥泉館長

――まず、今回のリニューアルに至った経緯を教えてください。

2014年6月に今の建物をオープンしました。当時はみなさんにクラゲを知って楽しんでいただけるよう「50種のクラゲ展示」を目標にしていましたが、実際にはそれ以上を継続して展示できました。ただ、展示を充実させればさせるほど、裏側のバックヤードが手狭になっていったんです。

加茂水族館で展示しているクラゲの9割以上は、実はここで繁殖させた個体です。クラゲは海から採ってきても寿命が短い種も多く、そのままでは長く展示することができません。受精卵から育てて繁殖させ、展示できる個体に育て上げる必要があります。そのためには水温や光の刺激など、非常に繊細な調整が欠かせません。裏側の設備が展示の質を決めると言っても過言ではなく、バックヤードは非常に大切なんです。

今回のリニューアルは「展示を支えるバックヤードを強化すること」が出発点でした。

クラゲを「学び」「知る」展示と研究

――リニューアルによって、施設はどのように変わりますか。

クラゲの水量は従来の1.5倍、面積は1.8倍に広がります。展示の規模が大きくなるだけではありません。来館者が“見て楽しむ”だけでなく、“学び、知る”ことができるように、構成そのものを見直しました。

新しくできた建物は3階建ての「研究棟」になります。1階は大きなレクチャールームです。これまで1クラス程度しか受け入れられなかった学習会が、3クラス同時に実施できるようになります。講演会や特別展も開催でき、小さな図書コーナーも備えます。子ども向けの生き物の本も置いて、誰でも気軽に利用できる“学びの場”にしたんです。

レクチャールーム

2階は「クラゲバー」(マイクロアクアリウム)。小型のクラゲを中心に、顕微鏡を使って観察できる解説コーナーになります。バックヤードの一部を公開して、裏方の仕事を窓越しに少し覗けるようになる予定です。

クラゲバー(マイクロアクアリウム)

3階はクラゲ研究所。ここは一般公開しませんが、研究の心臓部です。適切な温度へ自在に変えられる恒温室を6つ設置しました。国内で6つも設けているところは例がなく、海外でも稀な規模です。視察にきた海外の研究者がここを見て「ジェラシー(嫉妬)」と言ったほど。ここで繁殖実験を繰り返し、安定的にクラゲを育て、展示に活かします。

加茂水族館のクラゲは9割が繁殖個体で、全体の7割の種類を繁殖して展示を実施しています。比率を上げれば上げるほど様々なクラゲを安定して展示できることになります。そこが他の魚を展示することと最も違い、海から捕まえては展示、捕まえては展示といったことはなるべくしないよう、ある意味でサスティナブルな展示を追求することができます。

世界に挑むクラゲ「100種展示」

――リニューアルで掲げた大きな目標がクラゲの「100種展示」ですね。

現在、展示しているクラゲは80種ほど。世界的に見ても50種類以上を展示している施設は少ないです。すでにその壁を超えているわけですが、さらに100種を目指すのが、我々の挑戦です。

ただし、これは容易なことではありません。繁殖が難しいクラゲや、寿命が極端に短いクラゲもいて、毎日繁殖を繰り返さなければ展示できない種類もあるんです。誰もやっていない領域に踏み出しているので、不安もあります。

ただ、「数を増やす」こと自体が目的ではありません。100種の中で学術的に意味があり、来館者に楽しんでいただける展示を作りたい。単なる数字ではなく、“中身のある展示”を追求することが大事だと思っています。

――新しさだけでなく、変わらない部分もありますね。

クラゲドリームシアターや「ひれあしの時間」といった人気コンテンツは、これまで通り楽しんでいただけます。バックヤードツアーも健在です。
館内のレストランや売店も、定番の人気メニューを引き続き味わえます。

館内レストラン「沖海月」特集加茂水族館の名店「沖海月」で庄内浜の海の幸と鶴岡の文化を味わう
売店「海月灯り」特集加茂水族館「海月灯り」で見つける、とっておきのお土産
バックヤードツアー特集子どもから大人まで大人気の「加茂水族館」。バックヤードツアーに潜入!

鶴岡から世界へ、そして地域とともに

旧レクチャールームの柱に記された国内外の研究者からのメッセージ

――クラゲ研究は世界からも注目されています。

ヨーロッパやアメリカ、東南アジアからも視察が来ています。国内外の大学や研究機関とも連携していて、クラゲを使った細胞研究や環境研究など、幅広い分野に協力しています。そうした世界最先端を目指した研究がこの鶴岡で行われていることに意味があると思います。

ヨーロッパやアメリカ、東南アジアから視察が訪れ、国内外の大学・研究機関と連携した取り組みも進んでいます。なかでも東北大学・東京大学との共同研究で は、当館はクラゲを提供し、大学側で実験を実施。2025年5月23日に科学誌Nature Communicationsで成果が発表されました。ミズクラゲの筋肉に電気刺激を与えて遊泳を誘導し、その動きをシンプルなAIで予測する技術を実証しました。こうした成果は、将来的に海洋調査や環境保全に資する自律型“サイボーグ”ロボット開発への土台となります。そうした世界最先端を目指した研究がこの鶴岡も関係して行われていることに意味があると思います。

同時に、加茂水族館は地域とも深く関わっています。来館者の7〜8割は県外からのお客様です。水族館に来てもらうだけでなく、各温泉街や市内観光にも足を延ばして楽しんでもらいたい。鶴岡を知ってもらうきっかけとしての役割も、私たちに課せられていると思っています。

――最後に、来館者にどんな楽しみ方をしてほしいですか。

まずは「きれいだな、かわいいな」と思ってもらえれば十分です。そこから名前を覚えたり、お気に入りを見つけたりすれば、さらに楽しみが広がります。堅苦しい学びは後からでいい。気軽に楽しんで、帰ってから写真や動画で思い出を振り返ってもらうのもいいと思います。

クラゲは季節や環境によって姿を変えます。夏休みの自由研究や、冬の子ども向け企画など、イベントもさまざまです。何度来ても新しい発見がある――そんな水族館を目指しています。

1930年の前身の山形水族館から100周年に向けて、クラゲ展示の限界突破に挑戦します。新しくなった加茂水族館にぜひ足を運んで、自分だけの発見を見つけてください。

スポット情報加茂水族館
展示特集クラゲ展示で世界最大級!山形・鶴岡「加茂水族館」 展示の魅力を徹底紹介

※本記事の取材は2025年夏に実施いたしました。館長、佐藤さんご協力ありがとうございました!

■リニューアルオープン&臨時休館のお知らせ
加茂水族館は研究棟の増設に伴うバックヤードの強化を行い、展示のさらなる充実を目指しています。そのため【2025年11月~2026年3月】の期間は臨時休館となりますが、2026年春には展示種類数を80種から100種へと拡大した、より見応えあるクラゲの世界がお迎えします。新しい加茂水族館にどうぞご期待ください。