鶴岡ガストロノミー 「精進料理プロジェクト講演会」 実施しました

2023年11月13日、東京第一ホテル鶴岡で行われた「鶴岡ガストロノミーツーリズム~出羽三山精進料理を題材に」と題した講演会、および精進料理と日本酒のマリアージュを考える研修会のレポートです。

「精進料理の価値を再発見するも、どう伝えていくかが今後の課題」

日本で最初のユネスコ食文化創造都市である鶴岡市では、独自の観光資源をまとめた「詣でる、つかる、頂きます」をキャッチフレーズにこれまで観光客を迎え入れてきました。なかでも「詣でる」「頂きます」の両方にまたがる出羽三山の精進料理は、地域の大きな魅力の一つであり、訪日外国人からも根強い人気を誇っています。既に、その歴史や調理法、食材の整理などは確立されており、伝統維持に関しても力を入れてきましたが、今回、観光資源としての受け入れ体制を強化するために、「食の多様性」を目標に掲げ、2023年11月13日、市の中心にある東京第一ホテル鶴岡で、「鶴岡ガストロノミーツーリズム~出羽三山精進料理を題材に」と題した講演会、および精進料理と日本酒のマリアージュを考える研修会を行うことになりました。

法螺貝の音とともにスタートした第1部の講演会では、ファシリテーターを数百年の間、信仰者を受け入れてきた手向地区で、元は宿坊であった旅館「多聞館」を営む土岐彰氏が務め、宿坊「大進坊」の坊主で羽黒山伏でもある早坂一広氏、いでは文化記念館館長で、同じく羽黒山伏の吉住弘幸氏を迎えて行われました。
登壇した3人は、檀家と呼ばれる信仰者が減少している現状から、12年前に宿坊や旅館などとともに「精進料理プロジェクト」を発足した仲間でもあります。
講演会では、まず3人から、精進料理が山の神様の食べ物を身体に入れる修行のひとつであることが参加者に説明され、この精進料理を中心とした地域文化を国内だけでなく、イタリア食科学大学など海外の教育機関などにも伝える活動を行ってきたことが披露されました。その地道な活動は、旅行会社などからは「出羽三山といえば精進料理」というイメージを確立する成果につながり、宿坊に泊まる旅行者なども増えているといいます。訪日外国人客に関しても、吉住氏から「山形県全体でいえば中国、台湾、タイなどアジア圏からの旅行者が多いが、出羽三山に関しては、その精神性に魅かれた米国、フランス、スペインなど欧米からの旅行者が多い」という調査結果が報告され、今後もその強みを生かしていくことが述べられました。今後について3人は、鶴岡に来てもらいたいターゲットを設定して、地域固有の文化を共有する農家などの人々と連携しながら、「精神文化を推してくことが、結果的にガストロノミーツーリズムにつながるのではないか」という提言を行いました。

この3人の話に対し、観光事業者や地元在住の外国人を含む86名の参加者からは、「精進料理の背景を知ることができた」「鶴岡の魅力になる」など、地域文化の再発見になったという声があがりました。さらに、「山歩きや登山、収穫体験などアクティビティと食の組み合わせが今後誘客する上でもカギとなるのでは」といった提案もあがりました。一方で、ベジタリアン対応など、「誰もが一緒に食を楽しめる環境づくり」という観点については、精進料理がベジタリアンメニューに親和性が高いことは認めつつも「わざわざ変える必要はない」という伝統を守る派と「できる限り対応すべき」という柔軟な対応を求める派に意見がわかれています。いずれにせよ、地域でも精進料理の認識が人によって差があることから、まずは出羽三山の精進料理が精神文化に裏打ちされているという情報を的確に、そして、楽しく伝達することが求められていることがわかり、その体制づくりが次の大きな課題になることが確認されました。

続いて第2部では、精進料理に価値を付加することを目的に、日本酒とのマリアージュを考える試食会が行われました。第1部に引き続き土岐氏が精進料理を説明し、出羽三山の御神酒をつくる「竹の露酒造場」の相沢政男代表をゲストに迎えて、それぞれの料理にあう、それぞれの日本酒の説明とその相乗効果について解説いただきました。
用意された精進料理は四季を表したもので、春は山菜、夏は月山筍、秋は舞茸や柿、冬は冬菜など、季節の食材を使ったてんぷらや煮物などの料理が供されました。食の多様性にもこだわったことで、調味料にも味噌や醤油などはグルテンフリーの製品が使われました。
料理に合わせた日本酒の解説を相沢氏から聞きながら味わったことで、参加者たちは、日本酒との相性の良さに驚きながら、舌や目で感じるだけでなく、知識や記憶といったものからも味わう経験を楽しんでいました。アンケート結果からも約8割の方が満足しており、感想には、「出羽三山の山がけや滝行を経験したほうが食の意味も深くなる」など、精神文化とともに伝えるべき、味わうべきだという声が多く聞かれました。
今後の課題としては、精進料理と日本酒のマリアージュをいかに知ってもらうか、どのように伝えるのかがこれまで通り、大きな壁となりますが、その壁を超えた暁には、文字通り唯一無二のガストロノミーの聖地が誕生するという期待感を参加者全員が思ったのではないでしょうか。