鶴岡市―伝統と革新が交錯する建築の隠れた宝庫

羽黒エリア

鶴岡市街地

東北の日本海側にある山形県鶴岡市。ここには、驚くべき建築の物語が静かに織り成されています。人口10万人の街は、田園風景に古刹が点在する中、プリツカー賞を受賞した建築家たちが、周囲の自然と調和した形で革新的な作品を残しています。

東京から飛行機でわずか1時間。建築をテーマに訪れる場所としては、まだまだ知られていないこの場所には、訪れる価値のある建築の魅力が数多く存在しています。

鶴岡市の建築的魅力

プリツカー賞受賞建築の集中
鶴岡市には、建築界の「ノーベル賞」とも称されるプリツカー賞を受賞した建築家たちの作品が集まっています。この街には、彼らが手掛けた3つの重要なプロジェクトがあり、鶴岡の豊かな自然環境と文化的背景をキャンバスに、革新的なデザインが展開されています。

  • 「SHONAI HOTEL SUIDEN TERRASSE」と「KIDS DOME SORAI」 – 坂茂氏(2014年プリツカー賞受賞)
  • 「荘銀タクト鶴岡」 – SANAA(妹島和世氏と西沢立衛氏、2010年プリツカー賞受賞)

これらの建築家たちは、鶴岡の豊かな自然環境と文化的背景をキャンバスとして活用し、環境に呼応しつつその魅力を引き出す構造物を生み出しています。

伝統と革新の融合
鶴岡市には、1300年の歴史を持つ国宝「羽黒山五重塔」と最先端の建築が共存するという、珍しい対比が見られます。

地域文化と自然への応答
鶴岡の豊かな自然、厳しい気候、そして独自の精神文化が建築に巧みに組み込まれています。これらの建物は、地域に深く根ざしながらも普遍的な魅力を放ち、建築が地域とグローバルな関連性を両立できることを示しています。

訪れるべき建築 ― 現代の傑作

SHONAI HOTEL SUIDEN TERRASSE(坂 茂)

SHONAI HOTEL SUIDEN TERRASSE スイデンテラス 設計者:坂茂(2018年) 写真:スイデンテラス提供

世界的建築家・坂 茂が初めて手掛けたホテル建築。田園風景の中に優しく挿入されるように設計されており、周囲の自然との調和を実現しています。建物は棟を分け、2階建てにすることで周囲の景観に配慮しながら多様な眺望を楽しめる構成が特徴です。坂 茂建築の代名詞である紙管を活用した内装や、簡素で理性的な空間構成が際立ちます。木造を基本としながらも、軽やかさと安定感を両立させた意匠で、季節や天候によって周囲の田んぼや建物の表情が大きく変わる点も魅力です。

館内には坂がデザインしたサウナを含むスパ棟があり、名建築の中でととのうこともできます。

ポイント● 木造を基調にした分棟型設計で、田んぼの中に浮かぶような建築
● 坂茂氏が初めて設計したホテル
● 建築と自然が溶け合う四季折々の風景
見学・利用案内● 宿泊者以外も、レストラン(朝食/ランチ/ディナー)やショップの利用が可能
● 天然温泉・サウナは宿泊者限定
● 敷地内の散策や外観の見学は自由
アクセス● 庄内空港線「サイエンスパーク」バス停下車すぐ
● JR鶴岡駅より車で約10分
● 庄内空港より車で約20分
スポット情報ショウナイホテル スイデンテラス | SHONAI HOTEL SUIDEN TERRASSE

荘銀タクト鶴岡(SANAA)

荘銀タクト鶴岡 設計者:SANAA(2018年)

妹島和世と西沢立衛によるSANAAが設計した文化ホール。歴史的な街並みや山並みに溶け込むような分節化された屋根が特徴です。
大小の切妻屋根を連続させたフォルムは、日本の町屋建築や寺院建築を彷彿とさせつつ、透明感のある開口部や自由曲線的な動線計画によって、現代的な軽やかさも感じさせます。内部のホールはワインヤード形式で、客席がステージを取り囲むように配置され、演者と観客の距離を近づける親密な空間となっています。さらに、ホワイエや回廊の空間構成は、市民が気軽に立ち寄れる開かれた公共施設としての機能を果たしています。

ポイント● 鶴岡の街並みに配慮した低層・分節屋根の設計
● ヴィンヤード形式の座席配置で観客と演者の一体感を演出
● 公共空間と私的空間の境界を再定義する設計思想
見学・利用案内● 日中はロビーや回廊部の見学が可能(9:00〜19:00)
● ホール見学希望時は事前相談を
アクセス● JR鶴岡駅よりバスで約10分「市役所前」下車 徒歩約5分
● 駐車場あり
スポット情報(外部リンク)荘銀タクト鶴岡

KIDS DOME SORAI(坂 茂)

KIDS DOME SORAI 設計者:坂茂(2018年)

スイデンテラスの近くに建つのが、KIDS DOME SORAI(キッズドームソライ)という親子向けの教育施設です。(株式会社SHONAI運営) スイデンテラスと同じく坂 茂が手がけた直径35.6mの大スパン木造ドーム。庄内の自然や積雪地の気候に対応した設計で、地域産の木材資源を活かした実験的な建築となっています。雪国における大スパン木造の挑戦として、技術的にも建築的にも評価が高い作品です。

屋根には市松模様の外装が施され、天窓が光を取り入れ、換気も行える工夫が凝らされています。柱をなくし、ひとつながりの空間にすることで、子どもたちが自由に遊べる開放的な内部構成を実現。単なる遊戯施設にとどまらず、構造美と機能性が高度に融合した空間です。

ポイント● 地域材を用いた木造ドーム構造
● 自然光を取り入れるトップライトと開放的な内部空間
● 建築と遊びの融合、創造性を引き出す設計
見学・利用案内● 一般の方でも入館料をお支払いいただくことで見学可能(大人も可)
● 案内は付きません
● 月曜休館/9:00〜17:00(季節により変動)
アクセス● JR鶴岡駅より車で約10分
● 庄内空港・鶴岡駅から「サイエンスパーク」バス停下車すぐ
スポット情報(外部リンク)KIDS DOME SORAI

訪れるべき建築 ― 歴史的建造物

羽黒山五重塔(国宝)

五重塔
羽黒五重塔(国宝) 937年創建、14世紀に再建

937年創建、14世紀に再建された東北地方最古の五重塔。杉林に囲まれた参道の先に佇むその姿は、ミシュラングリーンガイドジャポンでも三つ星評価を獲得したほど。自然との一体感が見事な国宝建築です。

塔は釘を一切使わず、伝統的な木組み工法で建てられており、日本建築の粋を感じられます。周囲の杉並木と塔が静かに共鳴し合い、参拝そのものが瞑想的な体験になります。四季折々で景観が大きく変わることも魅力の一つ。特に積雪期の神秘的な姿は、多くの写真家や建築愛好家を魅了しています。

ポイント● 釘を使わない日本古来の木造技術
● 樹齢1000年超の爺杉とともに荘厳な佇まい
● 四季ごとに異なる表情を見せる景観美
見学・利用案内● 年中見学可能(冬季は装備に注意)
● 五重塔から更に石段を登ることで、出羽三山神社の三神合祭殿にもご参拝いただけます。こちらも日本でも最大規模の茅葺き屋根建築となっており一緒に巡るのがおすすめです。また、いでは文化記念館では、五重塔の模型や屋根の断面も展示されており、学芸員からの説明を聞くこともできます。
アクセス● JR鶴岡駅よりバスで約40分「随神門」下車 徒歩約15分
● 車利用時は「羽黒山頂」駐車場もあり
スポット情報羽黒山 五重塔 (国宝)

鶴岡カトリック教会 天主堂

鶴岡カトリック教会天主堂
鶴岡カトリック教会 設計者:パピノ神父(1903年)

1903年に建設されたロマネスク様式の教会建築で、パピノ神父が設計。白い外壁に赤い尖塔、内部は木造でありながらも西洋建築の荘厳さを感じさせる空間です。「黒い聖母像」や「窓絵」など、東西文化の融合が随所に見られます。

聖堂内は明治期の雰囲気をそのまま残し、木造でありながら堅牢で厳かな空間が広がります。天井が高く、やわらかな光が差し込む静かな内部は、訪れる者に深い安らぎを与えます。国内唯一とされる「黒い聖母像」は、フランスから伝わった珍しい信仰の証であり、教会の文化的価値を一層際立たせています。

ポイント● 国指定重要文化財
● 国内唯一とされる「黒い聖母像」
● ステンドグラスとは異なる彩色窓「窓絵」
見学・利用案内● 見学可能(8:00〜18:00/10〜3月は〜17:00)
● ミサ中は見学不可/無料/撮影不可
アクセス● JR鶴岡駅よりバスで約10分「市役所前」下車 徒歩約5分
スポット情報鶴岡カトリック教会 天主堂

建築巡礼:鶴岡を訪れる理由

  1. 世界的な建築作品の集中:プリツカー賞受賞建築家の作品を一度に体験できる希少な場所
  2. 文脈を重視したデザイン:現代建築が歴史や自然にどのように応答するかを観察できる
  3. 保存技術の学び:数世紀にわたる木造建築の保存技術を学ぶ貴重な機会
  4. 都市と農村の架け橋:都市と農村のニーズを繋ぐ建築的解決策を観察
  5. 四季を通じた建築体験:日本の四季と共に変化する建物の魅力を体感

建築巡礼:鶴岡を訪れる理由

観光案内所(鶴岡駅前)● 営業時間:9:00〜17:30(年中無休)
● レンタサイクル・地図配布あり
鶴岡市観光案内所
交通ハブJR鶴岡駅
庄内空港(市街地まで連絡バスあり
おすすめの巡り方(モデルコース)【1日目】
スイデンテラス&ソライ → スイデンテラス宿泊
【2日目】
羽黒山 → 荘銀タクト鶴岡 → カトリック教会 → 帰路
※移動は、レンタカーが推奨ですが、鶴岡駅から羽黒山行のバスも出ていますので、そちらで回ることができます。

建築と風景が対話し、土地の文化と響き合う鶴岡の建築群。実際にその場を歩き、風を感じることで、言葉では伝えきれない感動がきっと生まれます。知的な旅の目的地として、ぜひ鶴岡を訪れてみてください。

執筆:長岡太郎(株式会社SHONAI )