
前東北芸術工科大学学長 久保正彰氏
昭和28年ハーバード大学卒業。昭和50年東京大学文学部教授、同60年より文学部長。平成4年に山形県山形市に開設された東北芸術工科大学の学長に就任され、平成10年春まで学長を務められた。東京大学名誉教授、日本学士院会員。
私は今日、鶴岡に早く参りまして、致道館を詳しく見学させていただきましたんですが、私は致道館のたたずまい、建物、そしてそこに収められている孔子様をお祀りする祭式の器具、それから致道館の教育方針をしたためました学長先生の教育指導原則と申すべき書簡風の教訓でありますとか、それから特に深い感動を覚えましたのは「致道館本」と呼ばれる、致道館で版木がつくられ印刷され、学生たちに教科書として読ませた様々の漢籍などを拝見しておりますうちに、これ以上の大学を私は見たことはないと思いました。
そこには先祖の霊に対する深い敬愛のお祀りのあとが偲ばれますし、それから一人ひとりの学生たちの天性に従って教育するべしという素晴らしい理想、それからその天性を無視して行う教育は百害ありというその警告、それが教育の原則としてしたためられております。そして厳しい選抜制度が行われ、そして最終的に何人かの優れた藩士の子弟が養育費を与えられ、そこに寝泊まりすることが認められる。これはイギリスの一番古い一番立派な学校の姿であります。
この致道館という教育の場において目標とされた教育の理想とその方法、そしてやがて社会全体に還元されていくべき高い徳、地位とか名誉というのではなく、非常に高い徳をもって世の為を図るべしという孔子様の教えが、ここにははっきりと書かれております。どうしてこのような大学がもう日本にはなくなってしまったんだろうという、そういう気持ちが大変深くいたしました。
平成8年12月15日、市民団体の主催により鶴岡市で開催されたシンポジウム「地域が大学を育む 大学が地域を豊かにする」における基調講演の講演録より関連部分を抜粋して掲載させていただきました。
掲載をご快諾いただいた久保先生と主催団体の皆様に、心より御礼を申し上げます。